6畳くらいの厨房から、食パン、あんパン、ライ麦パン、まるぱん、フォカッチャ、ドーナツ。オーブンをフル回転させながら、少量ずつたくさんの種類のパンが次から次へと焼きあがります。レジ周りの、これまた小さなカウンターには、いつも10種類以上のパンがずらり。毎日食べても飽きない「毎日サイズのパン」が、今日も世田谷から横浜北仲へ。
ここは、地域の人たち「みんなの家」というコンセプトでつくられた場所なんです。
誰もが気軽に休憩したり、さくっと仕事をしたりしながら交流が生まれることを目指しています。
ここで買ったパンと自分で持ってきたおかずで、縁側でお昼ご飯を食べる人なんかもいますよ。
SNSを見てきました!みたいなお客さんは、残念ながらあまりいませんね(笑)
今日はまだ残ってる?って、地域の人が毎日の食卓に並べるパンを買いにきてくださいます。
少量でたくさんの種類を出しているので、お目当てのパンが売り切れてしまっていて、がっかりさせちゃうこともあるんですが。
11時くらいからいい匂いが広がりだす。
コンセプトである「毎日サイズ」ってどういう意味なんですか?
「一度の食事で食べきれて、飽きないサイズ」ですね。大きいパンって、食べきる前に飽きちゃうときがあるじゃないですか。
新商品を買ってみたら、イメージと違って、残ったやつどうしようか、とか。
確かにあるかも。
パンのボリュームが大きいと、おかずが食べきれなくなってしまうときもあります。
そうそう。「食べきらなきゃ」みたいな感覚で食べるのってもったいないですよね。
だったら、毎日食べきれる小さめのサイズで、また明日も買いに行きたくなるように、いろんな種類のパンを作りたいなと思いました。
自分の好きなパンをつくる!って感じですね。
私、ふわふわのパンが好きなんですよね。
マフィンって、スーパーで売られているのを半分に焼くと、薄いからちょっとぱさつくじゃないですか。あれが嫌で、うちでは4cmの型で焼いてます。
お店をオープンする前は、小麦や油の研究をされていたんですよね。
最初は地元の福岡でパン屋の店長をしていたんですが、経営の知識より、もっとパンのことを知りたいなと思って、製パンの学校に通うために上京しました。
卒業後もその学校に助手として残り、3年半ほどいろんな種類の小麦を研究していました。
お店の中のイートインスペースでお話を聞きました。
素材っておもしろいなーと思いましたね。小麦の品種によって水の吸い方も違いますから。
それからパン作りの講師を経て、素材メーカーの食用油の研究職に就きました。パンメーカーが求める食感に合わせた油の開発などを担当していました。
ご自身でパン屋を開こうと思ったのはどうしてですか?
研究も楽しかったんですが、毎日データを取って記録するという繰り返しだったので、段々自分でもまたパン作りをしたいなと思っていたんです。
そんなときに、3.11の震災が起きて、いつ何が起こるかわからないなら好きなことをやろうと決心したんです。
あんぱんにごまをつけていきます。ちなみに黒ゴマはつぶあん。けしの実はこしあん。
オープンから5年ほど経ちますが、せたがやブレッドマーケットはこの街にどのように根づいてきていますか?
ご近所づきあいの一部みたいな感覚ですよね。
3か月前に子どもが生まれたんですが、お店の横で寝かせているとお客さんがいつのまにかあやしてくれています。
常連のお客さんも多いですが、引っ越しシーズンで顔ぶれが変わるという寂しさもありますよ。
ラム酒が香る、新作のカヌレ。出来立てをいただくと、外はカリカリ中はもっちり。優しい甘さは、素焚糖のおかげ。
おしゃべり好きな方が多いですね。出店者さんもそうだから、店頭での会話が長い(笑)
他のお店から紹介されてうちに来るお客さんもいて、みんながあの空間を楽しんでいる雰囲気がありますね。
クランベリーとクリームチーズのパンですね。
2位はごまとさつまいも。
こどもからは、カニパンが大人気で、「カニー!」と叫んで走ってくる子もいるんですが、売り切れていた時の落ち込みようと言ったら・・・。なので多めにもっていくようにしています。
カニパンの目はレーズン。少し離れた目がかわいさのポイントなんだとか。
マルシェで人気No.1のクランベリーとクリームチーズのパン。
中のクリームチーズが見えるように、上を切って焼くようにしたところ人気が急増。
祖師ヶ谷大蔵のお店と、マルシェでは売れ行きは違いますか?
マルシェでは変わり種が人気ですね。こっちのお店では、まるぱんとかの定番メニューがよく売れていきます。
出店者さん同士のコラボレーションも多いそうですね。
ワタナベファームさんの「こはる」という卵を使ったシフォンケーキです。白身がプリッとしていて、へたらず、ふわっとしたメレンゲになります。
うしく農園さんの春菊やにんじんをフランスパンに練りこんだ野菜パンもとても人気です。季節限定なので、気に入った方はマルシェのたびに大人買いしていきますね。
定番メニューでは、フォカッチャの練り込みや仕上げにカモマイルクラブさんのオリーブオイルを使ったり。
取材中に焼きあがったばかりのクッションみたいなサイズのフォカッチャ。
マルシェでは小さく切って売られています。
質がいいだけに単価も上がってしまうんですが、横浜北仲マルシェは歴も長いので、出店者さんと何度も話すうちについ惹かれてしまうんですよね(笑)
素材の研究をされていただけに、新しい素材を知ると使ってみたくなっちゃうんでしょうか。
そうかもしれません。
お店を始めた当初は、外国産の小麦でしたけど、今は国産に切り替えました。砂糖は、すべてのパンに素焚糖という少し茶色い奄美諸島の砂糖を使っています。
食パンも焼きあがりました。2種類あり、四角はもっちり。山型はふわふわ。
単価を気にせず、最高の素材を集めた高級食パンをつくってみたいですね。
あとは、自家製のセミドライフルーツを入れたものとかもチャレンジしたいです。